
短期集中で多重債務
経営者はリスク管理には無関心で、期待収益最大化のみを目標に経営を行うかもしれません。
この場合、経営者は危険中立的(リスク・ニュートラル)である、と呼ばれます。
前では、各種の金融リスクのうち、金利リスクに絞って、その初歩的な分析手法を説明しまし金融機関経営が金利リスクにさらされる主要な原因は、調達・運用のミス・マッチングですから、金利リスクをミニマイズする資金の平均運用期間と平均調達期間を一致させればよく、そのためには、運用と調達のデュレーションを一致させるのが最適であるのは、これまでの議論から明らかでしょう。
運用と調達のデュレーションのズレ(デュレーション・ギャップ)を計算することが望ましいことになります。
もっとも、こうした計算を行った上で金利リスクを積極的にとっていくか、リスクを最小化するかは重要な経営判断です。
その点も含めたリスク管理の問題については後で詳しく考えます。
オ全体のリスクを定量的に把握する、という点ではやはり不満が残ります。
しかし、金融機関が直面している市場性のリスクは債券など伝統的金融商品のリスクだけではありません。
特に、近年、注目されているのは、取引が急速に拡大している金融派生商品(デリバティブ)に関連したリスクです。
デリバティブとは債券、株式、短期金融市場性商品、外国為替等の現物取引から派生した先物、スワップ、オプションなどの金融商品の総称です。
デリバティブの取引は一九八○年代後半以降、世界的に急速な拡大を続けています。
ISDA(国際S協会)の推計では、金利スワップ、通貨スワップとも取引規模は八七年から九二年にかけて五ないし六倍となっています。
また、米国の一部先進的な銀行では九○年代初めにはデリバティブの残高が想定元本(金利スワップ取引などで実際に交換されるのは金利のみです。
元本は交換されませんので想定上の元本という意味でこの言葉を使います)で測ると、バランスシート上の資産の約八倍に達しています。
以下ここでは、金利先物取引、金利スワップ取引、オプション取引の基礎について簡単に説明します。
デリバティブには極めて複雑なものもありますが、いずれも以下の基本的取引を組み合わせた商品とみることができます。
先物取引とは、将来の一定期日ないしは一定期間内に特定の商品を一定価格で受け渡すことを約束した約定書を売買する取引です。
金融商品の先物は、綿糸・生糸等天然繊維原料、大豆・小豆等穀物、金銀等貴金属、などと並んで、古くからよく組織された市場による取引が盛んに行われてきました。
以下ではこうした先物取引のうち、金利の変動に伴い債券価格が変化する金融商品(債券、CD、CPなど)を対象とした先物取引である金利先物取引を例にとって先物取引を説明します。
金利先物取引の基本的なリスクヘッジ機能は、現物市場において損失が出た場合、先物で相殺し得ることに伴うものです。
例を挙げて説明しましょう。
いま、投資家がある債券を保有しているとします。
もし、金利が先行き上昇すれば、価格が下落して売却損を抱えることになります。
前では、これに対するひとつの対処法としてイミュニゼーション運用について述べましたが、債券先物市場で予め、債券を売る契約をしておき(これを「売り建てる」と言います)ます。
もし、実際に金利が上昇し、債券価格が低下すれば手持ち債券については損失が発生しますが、先物市場で債券を売り建てておいたので、高値で売ることができ、損失は回避できます。
逆に、金利が下落し債券価格が高くなった場合、手持ち債券の利益は、先物市場で安値で売る必要があるために実現しません。
この場合、金利がどちらに動いても、利益も損失も発生しないため、金利リスクはヘッジされることになります。
また、債券の発行等による金利リスクは先物市場で買い建てることによるヘッジが可能です。
例えば、A社が固定金利では一○・五%、変動金利市場では、標準変動金利(インターバンク・レートなど)プラス○・二五%で資金調達が可能であり、変動金利調達を希望しているとします。
これに対し、B社はA社より格付けが落ちるため、固定金利では一二・○%、変動金利では標準変動金利十○・七五%が調達コストとなり、かつ固定金利調達を希望しているとしましょう。
この場合、A社はいずれの市場でもB社より低金利で資金調達が可能ですが、変動金利市場での格差は○・五ポイントの差しか存在しないのに対し、固定金利市場では一・五ポイントもの差が存在します。
つまり、A社はB社に対し、絶対的な優位に立つものの、比較優位は固定金利市場にあるため、A社が固定金利市場、B社が変動金利市場で資金を調達して債務を交換し、それによって得られたコスト節約分を分け合うことで利益が生じ得ることになります。
オプションと記念金貨われわれの周囲にもオプション的性質を持つものがあります。
例えば、配念金貨の類は、通貨として価値を持つとともに、もし、将来金価格が上がったり、コイン・コレクション上の価値がでてきたりすれば、額面以上に売れる可能性もあります。
つまり、保有者は通貨としての安定的価値を砺保しつつ、値上がりの可能性を享受でき、その時々の状況により、通貨として使うか、コレクションとして使うがオプションを保有していると言えます。
オプション取引は、もともと株式や商品などの取引に際して価格変動リスクを回避するために行われてきた取引形態です。
ここではその手法を外国為替に援用した通貨オプションを例にとって説明します。
通貨オプション取引では、一定のオプション料を払うことにより、先物予約実行について、予約を実行するか見送るかの選択権を買ったものとみることができます。
具体的には、ある通貨を将来の一定期日ないしは一定期間内に一定の価格(行使価格ストライキング・プライス)で「買う権利」(コール・オプション)ないし「売る権利」(プット・オプション)を売買する取引がオプション取引です。
繰り返しになりますが、これは権利であり、オプションを行使するか否かはオプション購入者(オプション・バイヤー)の自由であることが重要です。
なお、オプションの売り手をオプション・セラーと呼び、取引はオプション・バイヤーがオプション・セラーにオプション価格(プレミアム)を支払うことにより成立します。
為替レート変動とオプション売買の利益の関係は、ペイオフ・ダイアグラムと呼ばれるグラフを使うとわかりやすく説明することができます。
なお、オプションの種類には、大別して権利行使期間内であればいつでも権利が行使できるアメリカン・オプションと、権利行使が満期日に限られるョ−ロピアン・オプションがありますが、ここでは後者で考えます。
まず、オプションの価格であるプレミアムを支払って、外貨(ドル)を買う権利であるコール・オプションを購入したとします。
例として行使価格は一ドル一○○円、プレミアムは一ドル当たり五円としましょう。
もし、満期日の為替レートが一ドル一○○円より円高であれば、オプション・バイヤーはオプションを行使せず、直物市場でドルを買った方が有利です。
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